動物たちが無条件で愛情を与えてくれますが、残念ながらすべての動物が幸せで安全な環境で生活できているわけではありません。
ヨーロッパ最大級の施設を擁する「ティアハイム」は、ドイツに根ざした動物保護の伝統を持ち、年間約30万頭の動物たちを保護し、愛情溢れる新しい家族へと送り出しています。
90%以上の高い譲渡率を誇るティアハイムの特徴と、殺処分を行わないための仕組み、わたしたちにできる支援の形について、一緒に学んでいきましょう。
1. ティアハイムの歴史と基本情報
ティアハイムの起源
ドイツ語で「保護施設」という意味を持つティアハイム(Tierheim)は、民間の動物保護協会が運営する動物保護施設として、ドイツで創設されました。
現在、ドイツ国内には約500箇所ものティアハイムがあり、年間約30万頭の動物を保護しています。保護対象は犬や猫だけでなく、ウサギや爬虫類、鳥類など多岐にわたります。
参考:ピースワンコ・ジャパン
ティアハイムの役割
ティアハイムの主な役割は、「動物の保護と収容」と「動物の仲介と譲渡」です。保護された動物たちは専門的なケアや医療処置を受け、最適な里親に譲渡されるまで保護されます。
ティアハイムでは、命を守ることを最優先に考え、殺処分は行いません。
ティアハイムの歴史
ティアハイムは私設の施設として運営されており、その歴史は古く、数十年を経て現在の姿に至りました。多くの熱心なボランティアや寄付者の努力と支援によって、ティアハイムは存在しています。
ティアハイムへの支援
ティアハイムの運営には多額の寄付金やボランティアの協力が必要です。
個人や企業からの寄付金や遺贈、スポンサー費など、さまざまな形での支援が行われています。また、ティアハイムではボランティア活動も歓迎しており、動物たちに愛情を注げる人々の参加を待っています。
2. ティアハイムの役割と活動内容
ティアハイムは、動物の保護と収容、そして仲介と譲渡という主な役割を担っています。以下に、ティアハイムの具体的な活動内容を紹介します。
動物の保護と収容
ティアハイムでは、ティアハイムに保護される動物たちの安全と健康を保つために、以下の活動を行っています。
- 動物の保護
飼い主がいない、虐待や放棄された動物を保護します。 - 動物の収容
保護された動物たちは、適切な施設やケージに収容されます。動物たちは、種類や状況に応じて適切なケージやスペースに配置されます。 - 医療ケア
収容された動物は、必要な医療ケアを受けます。獣医師や獣医技術者が定期的な健康チェックや治療を行い、動物たちの健康管理を行っています。 - 心理的なサポート
保護された動物たちがストレスや不安を感じないように、適切な環境を提供します。スタッフやボランティアは、動物たちとの交流や遊びを通じて、彼らの心理的な健康をサポートします。
動物の仲介と譲渡
ティアハイムでは、保護された動物たちが新しい飼い主と出会い、新たな家族の一員として幸せに暮らすための仲介と譲渡も行っています。
- 飼い主との面談
ティアハイムは、動物と新しい飼い主のマッチングをするために、飼い主との面談を行います。面談では、新しい飼い主の生活環境や飼育経験、動物への愛情などを確認し、動物との相性を考慮します。 - 家庭訪問
一部のティアハイムでは、動物の譲渡前に飼い主の家庭を訪問し、飼育環境の確認を行います。これにより、動物たちが安心して暮らせる環境かどうかを判断し、適切な譲渡を行います。 - 譲渡手続き
面談と家庭訪問が完了した後に、正式な譲渡手続きが行われます。飼い主は、一定の条件を満たすことや責任を持つことを約束する必要があります。 - 譲渡後のアフターケア
ティアハイムでは、必要なサポートや助言を提供し、譲渡後も飼い主との関係を続け、アフターケアを提供しています。
日本の保護施設との違いは、譲渡後の手厚いアフターケアも行なっている点です。
様々な事情でティアハイムに収容された動物たちの中には、心に傷を抱えた子も多いのが事実です。
新しい家庭に馴染めるように、そしてまた同じことが繰り返されないように、専門知識をもつスタッフが助言を行なっている点は、日本にも参考にすべき点が多いにあるのではないでしょうか。
3. ティアハイム・ベルリン:ヨーロッパ最大級の保護施設
ティアハイム・ベルリンは、ヨーロッパ最大級の動物保護施設です。場所はベルリン市内から車で約30分の距離にあり、広大な緑地に囲まれています。
施設の総面積は東京ドーム約4個分に相当し、約18.5万㎡もの広さがあります。
1. 施設の特徴
ティアハイム・ベルリンは、動物たちが落ち着いて過ごせる環境を作り上げるために、さまざまな配慮がされています。
以下に施設の特徴をいくつかご紹介します。
- 犬舎では同じ種類の犬同士が触れ合えるように、個室からお互いの顔を合わせることができる構造になっています。
- 最低6㎡以上の広い飼育スペースが確保されています。
- ウサギや爬虫類などのための保護棟も存在し、各動物のために適切な飼育スペースと環境が整えられています。
これらの配慮により、収容された動物たちは自分たちの本来の性格や生態に合わせた飼育ができます。
ティアハイム・ベルリンは、「シェルターメディスン」と呼ばれる研究分野に基づいたアプローチを取っており、動物たちの健康と幸福に繋がっています。
2. 引き取られる動物たち
ティアハイム・ベルリンでは、年間約1.5万頭の動物が保護されます。
そのうち約6割は引っ越しや飼い主の死亡などの理由で引き取られてきた動物で、4割は飼い主が特定できないか、劣悪な環境で飼育されていたために獣医局によって押収された動物たちです。
3. ティアハイム・ベルリンの譲渡率
ティアハイム・ベルリンは、90%以上と非常に高い譲渡率を誇っています。これにはドイツの文化や法律が大きく影響しています。
ドイツではペットショップでの犬の販売が禁止されており、ペットを飼う場合はティアハイムなどの保護施設へ行くことが一般的です。
ティアハイム・ベルリンでは年間約1万頭の動物が引き取られ、約145日で新しい飼い主に譲渡されています。このため、多くの動物が新しい家族と再会することができるのです。
ティアハイム・ベルリンは、ヨーロッパ最大の保護施設として、広大な敷地と適切な飼育環境を提供し、多くの動物たちの保護と幸せな新しい家族への譲渡に取り組んでいます。
施設の運営体制やスタッフ・ボランティアの人数も充実しており、動物たちにとって安心できる場所です。
4. ティアハイムに保護される動物たち
1. 犬と猫
ティアハイムは犬と猫を主な保護対象としています。犬は全体の約三分の一を占め、特に重点的に保護されています。
犬はさまざまな理由で飼い主と離れ離れになってしまうことがあります。例えば、飼い主の死亡、動物アレルギー、引っ越しの際などやむを得ない事情などです。
また、飼い主の虐待が原因でティアハイムに保護される犬もいます。
猫も同様に、飼い主との関係が絶たれることがあります。ティアハイムでは猫舎を用意し、猫たちの保護とケアを行っています。
2. その他の哺乳類
ティアハイムでは猿、羊、ミニブタ、馬などの他の哺乳類も保護しています。これらの動物も飼い主の都合や劣悪な飼育環境から保護され、新しい家族を待っています。
3. 鳥類
ティアハイムでは猿や羊、ウサギ以外にもインコやフクロウなどの鳥類も保護しています。飼い主との関係が絶たれたり、違法な売買を経たりすることで、これらの鳥類が保護されることもあります。
4. 爬虫類
蛇やトカゲなどの爬虫類もティアハイムで保護されています。これらの動物は専門的な知識やケアが必要とされ、一般の飼い主には難しい場合もあります。
ティアハイムでは専門スタッフがこれらの爬虫類のケアをしています。
5. ティアハイムの運営と資金源
ティアハイムは、100%民間施設として運営されています。そのため、運営資金は税金ではなく、多くの寄付や一部の事業収益によって賄われています。
ティアハイムの主な収入源には、以下のようなものがあります。
寄付
ティアハイムは、個人や故人からの寄付、企業のスポンサー費など、多くの寄付を受けています。これらの寄付は、ティアハイムの運営に不可欠であり、地域の動物保護活動にも貢献しています。
事業収益
ティアハイムは、隣接している動物病院やオリジナルグッズの販売など、一部の事業によって収益を得ています。こうした収益は、ティアハイムの維持費用に充てられています。
会費
ティアハイムを運営するベルリン動物保護協会は、約1.5万人の会員と約1万人の寄付者を有しています。会員は年間最低20ユーロの会費を支払い、会員特典として会員限定のマガジンやカレンダーなどを受け取ることができます。
また、会員は動物アドバイザーから直接飼育に関する情報を入手することもできます。
獣医局の委託料金
ティアハイムでは、獣医局が没収した動物の保管を委託するために、年間60万ユーロの料金が支払われています。これは施設の年間維持費の約7.5%に相当します。
ティアハイムの運営には、多様な資金源が活用されています。寄付や事業収益、会費などが運営費用を支えており、地域の動物保護活動に大きく貢献しています。
まとめ
ヨーロッパ最大の動物保護施設ティアハイムは、多くの動物たちを保護し、新しい家族との出会いを提供しています。ティアハイムの役割は、動物の保護と収容、仲介と譲渡にあり、努力と支援によって成り立っています。
ティアハイムの運営には多額の寄付とボランティアの協力が必要で、日本と同様に課題もまだ残っています。
しかし、国民の高い意識によって高い譲渡率を誇っている点や、譲渡後のアフターケアなど、動物愛護先進国から学ぶ点はたくさんあります。
日本でも里親になるという選択肢が広まってはいるものの、2022年4月1〜2023年3月31日までの1年間で引き取り数22,392頭に対して、2,434頭が殺処分※されています。
(※環境省データ)
私たちも、周りにこの現状を伝えていくことで、全体の意識を変えることができます。