近年、健康や環境に配慮するライフスタイルの一環として、菜食主義やヴィーガンの食生活が世界中で広がっています。
特にアスリートの間では、パフォーマンス向上や体調管理を目的にヴィーガン食への移行が注目されています。
ヴィーガンアスリートを目指すにあたって、どのような点に注意すべきなのか、またどのような利点があるのでしょうか。
- ヴィーガン生活を始める前に知っておきたいこと
- ヴィーガンアスリートへの移行方法
- ヴィーガン食を実践する世界的なアスリートたちの例
- ヴィーガン食がアスリートにもたらす様々な利点
さあ、ヴィーガンアスリートの世界へ一歩を踏み出してみましょう。
ヴィーガン生活を始める前に知っておきたいこと
ヴィーガン生活を始める前に、いくつかの重要なポイントを知っておくことが大切です。以下のリストは、ヴィーガン生活に移行する前に理解しておくべきポイントをまとめたものです。
ヴィーガン食は植物性食品だけで構成されています。肉、魚、乳製品、卵、蜂蜜などの動物性食品を摂取しません。
また、ヴィーガンは革や毛皮の使用を避けるなど、生活のあらゆる面で動物性の製品を使用しません。
ヴィーガン食は栄養バランスを考える必要があります。
植物性食品には多くの栄養素が含まれていますが、特定の栄養素不足のリスクもあるため、バランスの取れた食事が重要です。
特にビタミンB12や鉄などの栄養素は、注意が必要です。
ヴィーガン食は個人の体質や健康状態によって合わない場合もあります。
ヴィーガン生活に移行する前に、自身の体調や健康について専門家に相談することをおすすめします。
ヴィーガン食は、エシカルな選択としても注目されています。
動物の搾取や残虐行為を避けるために、ヴィーガン食を選択する人々が増えています。
ヴィーガンアスリートへの移行方法
ヴィーガンアスリートを目指す方は、専門家のアドバイスを受けながら慎重に移行することがおすすめです。
以下に、ヴィーガンへの移行方法をいくつか紹介します。
食事の変化を段階的に行う
いきなりヴィーガンになるのは難しいかもしれません。まずは野菜中心の食事から始めてみましょう。
まずは肉や魚を食べる機会を減らし、代わりに野菜や穀物、豆類などの植物性食品を摂るようにします。徐々に肉や魚の摂取量を減らし、完全なヴィーガンに移行しましょう。
肉の代わりに大豆ミート、牛乳を豆乳やアーモンドミルクに替えるなど、植物性の代用品はたくさんあります。
近年では卵の代わりの商品も販売されていますので、通販でヴィーガン向けの商品を探してみると良いでしょう。
卵の代わりに使用できる植物性の代替食品やレシピは、「【ヴィーガンに】卵の替わりに使える植物性の食材＆レシピ９選」の記事を参考にしてみてください。
栄養バランスを考える
ヴィーガンになると、肉や魚から得られていた栄養素が不足する可能性があります。肉から得られるタンパク質や鉄、亜鉛などの栄養素は、適切な代替食材で補う必要があります。
野菜、穀物、豆類、ナッツ、種実類などをバランスよく摂取し、必要な栄養素を確保しましょう。
サプリメントの活用
ヴィーガンになると、ビタミンB12やビタミンD、DHAなど、必要な栄養素を摂るのが難しくなることがあります。これらの栄養素はサプリメントで補うことができます。
専門家と相談し、必要なサプリメントを選びましょう。
食事のバリエーションを増やす
ヴィーガンになると、従来の食事から抜ける食材もあります。しかし、植物性食品は多様で、食事のバリエーションを増やすことができます。
野菜や果物の種類を増やしたり、異なる穀物や豆類を試したりすることで、栄養バランスを保ちながら楽しい食事を作ることができます。
チームや周囲のサポートを受ける
ヴィーガンアスリートになることは、チームや周囲のサポートを受けることが重要です。トレーナーや管理栄養士などの専門家に相談したり、ヴィーガン食を理解してサポートしてくれる仲間を見つけてみてください。
ヴィーガンアスリートを目指す方は、自分に合った方法で移行していくことが重要です。まずは少しずつ食事を変えてみて、体調やパフォーマンスの変化を確認しましょう。
アスリートにおける肉と菜食主義の現状
肉を食べることが不可欠とされてきたアスリートの見方が変わってきた
従来、肉を食べることがアスリートにとって不可欠だとされてきましたが、最近では菜食主義を選択するアスリートが増えていることが注目されています。
実際、オリンピック金メダリストを含む多くのアスリートが菜食生活を送っており、その成績も素晴らしいものです。
菜食主義を選ぶアスリートの成績向上が注目されている
菜食主義とアスリートの関連性についてはまだ研究が進んでいない部分もありますが、菜食主義を選択するアスリートが増えていることは事実です。
アスリートにとって食事はトレーニングの一環であり、タンパク質が不可欠だと考える人も多いですが、実際には肉を食べずともタンパク質は摂取でき、筋肉を作ることは可能です。
菜食主義を選ぶ理由
アスリートが肉を含まない食事を選択する理由はそれぞれですが、いくつかの理由を挙げてみましょう。
健康面
菜食主義は疲労回復効果が高く、血圧やコレステロール値を安定させる効果があります。また、自然治癒力を高める効果もあります。
リスク回避
肉を食べることにはリスクも伴います。肉から摂取した成長促進薬がドーピング検査で陽性反応を示す原因となることもあります。
このようなリスクを回避するためにも、菜食主義は選択肢として考えられます。
環境への配慮
肉産業は環境に悪影響を与えるとされており、地球温暖化や森林破壊などの原因とされています。菜食主義は持続可能な食事スタイルとして注目されており、環境への配慮も一因と言えます。
菜食主義への転向する際には、十分な栄養素を摂ることが重要です。
肉や魚から摂取されるタンパク質を代替するためには、植物性食品から良質なタンパク質を摂取する必要があります。
例えば、豆製品やナッツ、シード、大豆製品などには良質なタンパク質が含まれており、代替食品として利用することができます。
菜食主義を選ぶアスリートたちは、彼らの理由や目標に合わせて肉を避ける食生活を選択しています。
ヴィーガン食がもたらすアスリートへの利点
ヴィーガン食は、アスリートにさまざまな利点をもたらすとされています。以下にその利点を紹介します。
疲労回復効果が高まる
ヴィーガン食は、野菜や大豆などの植物性食品が中心です。これらの食品には豊富な栄養素が含まれており、特に疲労回復に効果があります。
例えば、ビタミンCが豊富な野菜は、酸化ストレスから身体を守る効果があります。また、ビタミンB群やミネラルも疲労回復に寄与します。
高いパフォーマンスを維持できる
ヴィーガン食は、消化吸収がスムーズであるため、エネルギーの供給が安定します。また、野菜や果物には抗酸化作用があり、怪我をしたあとの回復を助ける効果もあります。
＜食べものの消化にかかる時間＞
食べ物によっては、果物は約40分、野菜は約2時間、ご飯などの炭水化物は約8時間、お肉は約12～24時間かかります。
お肉を食べると胃がもたれるのは、通常約3～5時間の消化活動で済むところ、3倍以上の時間がかかるからです。
生活習慣病のリスクが低くなる
ヴィーガン食は、動物性脂肪やコレステロールをほとんど含まないため、生活習慣病のリスクを低減します。
環境に優しい
ヴィーガン食は、動物の生産にかかるエネルギーや資源を大幅に削減するため、環境に優しい食事とされています。アスリートがヴィーガン食を選ぶことで、環境問題に取り組む一翼を担うこともできます。
以上が、ヴィーガン食がもたらすアスリートへの利点です。
ただし、個人の体質や運動メニューによっては、ヴィーガン食が向いていない場合もあります。
アスリートがヴィーガン食を実践する際には、専門家のアドバイスを受けながら適切な食事プランを立てることが重要です。
映画「ゲームチェンジャー」で証明された衝撃の事実
2018年公開のドキュメンタリー映画『ゲームチェンジャー』では、ヴィーガン食がアスリートにもたらすメリットが、科学的立証をもって証明されました。
映画の中では、次のことが解説・検証されています。
- 剣闘士の多くが菜食だった。
- 糖質を制限してタンパク質に偏った食事をすると、慢性的な糖質不足に陥る。これは慢性疲労やスタミナ不足の原因になる。
- 科学的には、筋肉を動かすのは植物由来の糖質である。
- 肉となっている動物（牛・豚・鶏）はそもそも植物だけを食べてタンパク質を合成している。
- 人類の祖先はほぼ草食。人間は身体の機能的に動物を消化するのに適していない。
- 「タンパク質＝肉」と誤認させているのは、食肉業界のマーケティング戦略である。
こちらのドキュメンタリーはNetflixでご覧頂けます。
有名なヴィーガンアスリートたち
世界には、多くのヴィーガンアスリートが存在します。彼らの体験と成績は、肉を食べる必要性に疑問を投げかけるものとなっています。
有名なヴィーガンアスリートをご紹介します。
カール・ルイス
カール・ルイスは、オリンピック陸上競技で4大会連続金メダルを獲得した伝説的な選手です。彼はヴィーガンアスリートの先駆者としても知られています。
1984年のロサンゼルス五輪で100メートル、200メートル、走り幅跳び、400メートルリレーと、出場した全４種目で金メダルを獲得。 100メートルは２連覇、走り幅跳びは４連覇を果たし、1996年のアトランタ五輪までの４大会で、計９個の金メダルを獲得しました。
ルイス・ハミルトン
ルイス・ハミルトンはF1ドライバーであり、6回のワールドチャンピオンの記録を所持しています。彼もヴィーガン食を実践しており、多くの優勝を果たすためにその効果を実感しています。
ハミルトンは健康上の理由をきっかけに、環境保護・エコロジー関心を深めていく上で、食事と栄養へのアプローチを根本的に変える選択をしました。
F1i.comのインタビューでは、
僕が菜食主義になった理由の大部分は、環境と動物への配慮によるものだ。
と語っています。ハミルトンは、ハリウッドスターのアーノルド・シュワルツェネッガーとともに、映画『ゲームチェンジャー』にも出演しています。
スコット・ジュレック
伝説のウルトラランナーのスコット・ジュレクは、2015年7月、アメリカの14州にまたがる3,522kmのアパラチアントレイルを、46日8時間7分で走破し世界新記録を樹立しました。
ヴィーガン（完全菜食主義者）を実践しながら世界記録を樹立したことで、そのライフスタイルに世界が注目しています。
なぜ完全菜食主義者にしてウルトラマラソンの王者に君臨し続けることができたのか。彼は、著書「EAT&RUN 100マイルを走る僕の旅」の中で、食べること、走ること、そして生きることについて語っています。
アレックス・モーガン
アレックス・モーガンは、アメリカ合衆国女子代表チーム（USWNT）の一員として国際的に成功を収めています。
彼女は速度、テクニック、得点力を持つフォワード（前衛）として知られています。モーガンは数々の重要な試合で活躍し、特に2019 FIFA女子ワールドカップではアメリカ代表チームの一員として、チームを優勝に導きました。
また、クラブチームではNWSL（National Women’s Soccer League）のオーランド・プライドやトップリーグのチームでプレーしています。
“I’m knocking on wood right now, but I haven’t had a serious injury [since her last, which was before going vegan] and I credit that to my diet.
I feel better all around, I feel like I have great energy, I feel like I’m sleeping really well, I feel like I’m just more clear-minded and not as reliant on caffeine as before.”（［ヴィーガンになる前の最後の怪我以来］大きな怪我をしていません。それは食生活のおかげだと信じています。
全身の気分が良くなり、エネルギーが満ち溢れているように感じ、よく眠れ、頭がより明晰になり、以前ほどカフェインに依存しなくなったように感じます。）– アレックス・モーガン –
彼女はサッカー選手としての成功だけでなく、女性アスリートとしての影響力も大きく、平等や女性の権利に関する活動にも積極的に取り組んでいます。
ヴィーガンになったのはアニマルライツの理由からで、動物愛護団体PETAの広告塔としても活動しています。
ペットを飼う時にはペットショップやブリーダーからでなく里親になることを勧めており、彼女自身も、保護犬「ブルー」の里親になっています。
“I adopted a vegan diet, because it didn’t feel fair to have a dog I adore, and yet eat meat all the time.”
（大好きな犬を飼っているのにいつも肉を食べるのは不公平だと思ったから、ヴィーガンの食事を採用したの。）– アレックス・モーガン –
ビーナス・ウィリアムズ
ビーナス・ウィリアムズは世界的に有名なテニスプレイヤーであり、ヴィーガン食を始めてから体調の改善とパフォーマンスの向上を実感しました。
オリンピックでは合計4個のメダルを獲得するなど、テニス界の頂点に君臨する彼女がヴィーガンになったのは、自己免疫疾患のひとつである「シェーグレン症候群」と診断されたことがきっかけでした。
過度の倦怠感を引き起こす病気ですが、ヴィーガン食でうまくコントロールすることで、選手生命の危機を乗り越えました。
現在は、サステナブルなパッケージにこだわった、珊瑚に優しいヴィーガンの日焼け止め「EleVen by Venus」を発売したり、ヴィーガンプロテインブランド「Happy Viking」を立ち上げるなど、起業家としても活躍しています。
ノバク・ジョコビッチ
ノバク・ジョコビッチは、セルビア出身のプロテニス選手で、テニス史上最も成功した選手の一人です。
19歳でトップ10入り、20歳で全豪を制するなど若くして多くの成功を収め、全豪オープン、全仏オープン、ウィンブルドン選手権、全米オープンなど、テニスのグランドスラム大会で優勝しています。
特にウィンブルドン選手権では複数回の優勝経験があり、オーストラリアン・オープンでも複数回の優勝を果たしています。
“better than I ever have before… I have much more energy, and I’m proud to be a vegan athlete”.
（これまでよりも良くなった。エネルギーがずっと増えた。ヴィーガンのアスリートであることを誇りに思っている。）– ノバク・ジョコビッチ –
2020年に全豪で連覇を果たし、大会史上最多となる8度目の頂点に君臨。2021年3月には、通算1位在位期間を歴代最長の「311週」に伸ばし、全豪、全仏、ウィンブルドンを制覇しました。
また、ATPツアーファイナルやマスターズ1000シリーズなど、多くの重要なトーナメントで優勝しています。
ジョコビッチはその優れたスキル、フィジカル、精神力で知られており、テニス史上における偉大な選手の一人として認められています。
パトリック・バブーミアン
世界一の怪力男と呼ばれているパトリック・バブーミアンは、マレーシアの世界記録保持者であり、ヴィーガン食を実践しながら驚異的な力を持つ重量挙げの選手です。
2005年から菜食主義を取り入れたバブーミアン選手は、2015年に「ヨーク・ウォーク」と呼ばれる競技で560キロの重さを担いで歩き、自身が持つ世界記録を更新しました。
バブーミアンは2005年に肉食をやめ、当時105kgだった体重は菜食になって130kgに増量したことを、映画「ゲームチェンジャー」の中で語っています。また、同時に4つの世界記録を打ち立てました。
彼の成功は、ヴィーガン食が筋力やパワーの向上にも効果的であることを示しています。
“どうしたら肉を食べずにそんな雄牛のように強くなれるの？”って聞かれたよ。そのときに、“雄牛が肉を食べるのを見たことがあるか？”って答えたさ。
– パトリック・バブーミアン –
ケンドリック・ファリス
ケンドリック・ファリスはアメリカの重量挙げ選手であり、アメリカ新記録を達成した実績を持つヴィーガンアスリートです。
ファリスはヴィーガン食を選択する理由について、動物愛護や環境への配慮、自身の体調管理などを挙げています。
ファリスは、2008年北京オリンピック、2012年ロンドンオリンピック、そして2016年リオデジャネイロオリンピックにアメリカ代表として出場しました。
特筆すべきは、2016年のリオデジャネイロオリンピックで、ファリスがアメリカ合衆国の男子ウエイトリフティング代表として初めて4回目のオリンピックに出場し、アメリカの記録を更新したことです。
ファリスはアフリカ系アメリカ人としても知られており、彼の成功はアフリカ系アメリカ人のウエイトリフティング選手としての地位向上にも貢献しています。
彼らの成功は、ヴィーガン食がアスリートの筋力や回復力、パフォーマンスにも良い影響を与えることを示しています。
ヴィーガン食が優れたスポーツパフォーマンスを追求するアスリートにとっても有効な選択肢であることが証明され始めています。
まとめ
ヴィーガン食は健康を意識した選択であり、アスリートにとっても有効な選択肢です。パフォーマンスの向上や疲労回復効果、生活習慣病のリスク低減など様々なメリットがあります。
さらに、環境保護への貢献や動物の搾取を避けるというエシカルな観点からも注目されています。
有名なヴィーガンアスリートたちもその成功を証明しており、彼らの存在が菜食主義のアスリートへの影響を広げています。
ヴィーガン食に移行する際には注意が必要です。栄養バランスを考慮し、適切なサプリメントを活用しながら食事を工夫する必要があります。
また、個人の体質や健康状態、目標に合わせたプランを立てることも重要です。
専門家のアドバイスを受けながらヴィーガン食を実践することで、優れたスポーツパフォーマンスと持続可能な未来を築いていきましょう。
